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せつなさの向こうに何を見るのか
Sentimental Graffiti シリーズ
 マーカス、サイベル、コミックス、NECインターチャネル

Sentimental Graffiti (SS)(Win95)
Sentimental Graffiti2 (DC)

 このゲームがこの位置にあるということ。それは、ある人は至極当然のように受け取るでしょうし、ある人は眉をしかめるでしょう。このゲームは一般向けにはおそらくお勧めできません。このゲームの唯一といって最大の長所は、各キャラクターが良く定義されているという一言に尽きると思います。よく表現されているではなく、よく定義されているです。

 なんだか、数学用語みたいな言い回しですが、ゲーム内容にはとても矛盾点が多いのです。まず、一番いけないのはシナリオ上の矛盾が多いこと。イベントごとの相関関係がはっきりと崩れる所が数ヶ所あります。しかし、さすがにWin版では直っているところが多かったようです。  次に、常人には考えられないほど超人的な動きをする主人公。もともと、全国の12都市に幼馴染のかわいい女の娘が点在しているという時点ですでに常人では無いのですが、平日は全てバイト、金曜の夜に出かけてあちこち回って月曜の朝に帰ってくるの繰り返しをほぼ一年繰り返すことができますか?
 で、こういう主人公にはプレイヤーは完全にシンクロはできないのではないでしょうか。少なくとも私はできなかったようです。
 グラフィックは原画からは2レベルくらいダウンしたもので、あちこちで結構叩かれました。肝心のシナリオはどうかと言うと、各キャラの個性を際立たせていることには成功していると思うのですが、システムの都合上、全キャラに共通のレールのような物があり、結果として全てのシナリオが同じようなエンディングを迎えることになり、2人クリアした時点でラストが見えてしまうものになっています。
 さて、このシステムの都合上というのがまた曲者で、SS版では全員のキャラに少なくとも一回は会い、半数のキャラのイベントを少しずつ進めるなどの条件をクリアしないとベストエンドへはたどり着けません。このあたり、製作者が何を意図してこのようなシステムにしたのかが理解に苦しむ所だったりします。誰か知っている人はいらっしゃるでしょうか。但し、この仕様はSS版のみで、Win版ではただ一人を登場させてベストエンドクリアをすることはできます。

 では、このゲームのゲームとして優れているところは全く無いかと言うとそういうわけでもありません。システム上の一番の特徴はヒロインを主人公の側から振ることができること。今までも、シナリオの選択肢として登場人物を振ることのできるゲームはありましたが、主人公から能動的に振ることができるのはこのゲームが始めてではないでしょうか。また、振ったことが原因として起こるイベントも精神的に非常に打撃を与えるものとなっており、興味深い物であります。
 また、ショートカットを多用した操作性の向上などはPCユーザにはなじみの深い物であり、プレイ時間が短縮されるので、他のゲームにも見習ってもらいたいところです。同社の「Brack Matrix」にも同様の機能は存在します。また、CDのシークもそれほど遅くは無く、プレイ間隔は概ね良好です。

 しかし、これだけの理由で、ここまで上位に押しているわけではありません。では、このゲームの魅力とは一体何なのでしょうか。
 このゲームのキャラクターについて私は書きました。「良く定義されている」と。通常、12人いれば気を抜いたようなキャラクター、人気の無いキャラクターが一人や二人は出てくる物です。しかし、このゲームでは多少の人気の多寡はあるものの、それぞれのキャラにそれぞれの熱狂的なファンが存在します。

 このゲームはまず、原画ありきでした。発表当時、各サターン系の雑誌に載っていたのはいうまでもなく綺麗に彩色された原画だったのです。私の目から見ても原画はまず合格でした。そして、設定。あちこちにいる女の娘と遠距離恋愛をするというコンセプトは当時のゲームとしてオリジナリティが有り十分魅力的に映りました。これも合格でした。
 しかし、市場での人気は私の予想を遥かに超えて膨らんで行っていました。それを認識したのは「Sentimental Graffiti First Window」の発売を以ってしてです。これはゲーム本編では無いので数には入れませんでしたが、限定3万本しか発売されなかった「Sentimental Graffiti First Window」はあっという間に品切れとなり、しばらくは定価の6〜7倍の値段で取引されていました。それまでも、各キャラごとの音楽CDなどが発売されていたのですが、売れているのかなとも思っていたのですが、それは杞憂だったようです。「Sentimental Graffiti First Window」は現在でも市場価格は定価の1.5倍しています。
 私も「Sentimental Graffiti First Window」は欲しかったのですが、人気の読み取りを間違えた為入手できず、本作の発売まで待つこととなりました。そして、出た本作は前述の通りの内容でした。

 しかし、ゲームの中でも各キャラだけはよく動いていました。各キャラの性格は非常によく出ていて、その魅力は十分に発揮されていたでしょう。全体でみるとちぐはぐな世界バランスが目立っていましたが、キャラ個別で見ればそれほど気になる物でもありませんでした。
 それでも、それほど深くはまるほどのシナリオかというと、私自身首をかしげます。私がこのゲームにはまった真の原因は他にあります。

 七瀬優。一人のキャラの存在が私をここまで引っ張ってしまったと言っても過言ではありません。現実世界をその背景世界とするLSGは数多くありますが、彼女のように自然を歴史を世界を愛しているキャラクターは他にはいませんでした。ゲームをプレイして七瀬優に出会う。ここが全ての始まりだったのです。CDを買い、アニメを見るようになりました。
 今はもう閉鎖されてしまいましたが、バンプレストのセンチメンタルジャーニーというPS用ボードゲームの企画Webページがありました。そこには「Sentimental Graffiti」の各キャラクタ個別にBBSが設置されていました。丁度、ネットを始めた時期がそのWebページの開設と重なっていた私は、ほどなくそこに入り浸るようになりました。
 なかでも、七瀬優のBBSは他のBBSとはまた変わった雰囲気を出していました。みな、我が強く、自分自信が変わり者であることに誇りを持っているような連中ばかりで、彼らと知り合えたことが「Sentimental Graffiti」をやっていて一番良かったことです。辛い時には励ましあい、楽しい時にはばかをやって大騒ぎする。とても暖かい雰囲気のする空間・・・というと変な言い方かもしれませんが・・・がそこにはありました。

 さて、ここまではまって私はいくつか「Sentimental Graffiti」のいわゆるグッズに手を出すことになりました。そして驚いたのは、音楽CDの中にとてもクオリティの高い曲が数曲あったことです。特に、沢渡ほのかのテーマ「Long Distance Call」、星野明日香のテーマ「Sweet Tear」はメロディも歌詞も耳に残るとてもよい曲です。私は基本的には七瀬優関係の物しか買わないようにしていたのですが、この2曲はあまりにできが良いのでやはり買ってしまいました。
 ただ、グッズの中にはこんなのどうするんだというような物もなきにしもあらずです。例えば、各キャラの通っている学校の校歌集なんていうのも発売されているのですが、完全にコレクターアイテムです。・・・まあ、程ほどにということですね。

 また、七瀬優に限らず、各キャラクターはこれらのグッズによって、とてもよくそのキャラクター性が補間されています。そしてそれらは一貫性が強く、各キャラの魅力をとても際立たせる物となっています。
 各キャラクターが良く定義されているとは即ちこういうことです。このゲームはまず、キャラクターありきなのです。世界設定や、シナリオはあとからつけたしたのがほとんどでしょう。また、CDドラマなどのサイドストーリーでは完全に別世界になっているようです。
 私は別にこういう作り方を否定はしません。キャラクターを前面に押し出したこのゲームの作り方は商業的にも成功をしているからです。ゲーム自体のできがそれほど良くは無いことはほとんどのプレイヤーがわかっています。それでも、この作品から離れないのはよく作りこまれたキャラクターがいるからです。世界に関係無く、一人一人のプレイヤーの頭の中で一人歩きして行くキャラクター達。プレイヤーにそのように考えてもらえるのは一種、デザイナ冥利に尽きるのかもしれません。

 そんな各キャラの紹介などしてみましょう。例によって順番は私が押している順です。

七瀬 優

永倉 えみる

安達 妙子

星野 明日香

杉原 真奈美

森井 夏穂

保坂 美由紀

山本 るりか

綾崎 若菜

松岡 千恵

遠藤 晶

沢渡 ほのか

人気のあるキャラクターについて

 こういった、多数のヒロインが出てくる作品にはよくあることなのですが、このゲームにも人気のあるなしは結構激しく存在します。しかし、先に述べた通り人気の全く無いキャラクターは存在せず、どのキャラクターにも熱烈なファンは存在します。
 キャラクター的な人気でいうと、誰が一番人気かはわかりませんが、沢渡ほのか、安達妙子、綾崎若菜、杉原真奈美の4人が比較的人気があるようです。理由は、色々あると思いますが、ヒロイン紹介を見て分析するのも一興かも知れません。(笑)私自身はこの状況についてはプレイヤー層を鑑みればとても納得のいく結果だと思っています。

続編について

 本作品には2000年1月に発売が予定されている続編があります。しかし、公開されている内容は前作の主人公の葬式から始まると言う、非常に突飛なものです。
 この設定には、納得できていないファンが多く存在しているようです。確かに、主人公級のキャラクターが途中で不意に死んでしまったり、いなくなってしまったりする作品は多数あります。しかし、前作の主人公と言えばプレイヤーの分身でもあります。それが物語の都合上、さくっと死んでしまっては、納得いかないのもわかると言うものです。
 ただ、この納得いく、いかないは感情的な問題です。しかし、こういった感情に働きかけるような内容の作品を作っておいて、続編にこういう設定を持ってくると言うことは、製作者側はファンの感情を全く無視しているとしか思いようがありません。
 採算を度外視した作品第一主義を掲げるのであれば、こういったプレイヤーの思惑は無視できます。要は、売れなかろうがなんだろうが、わかる人に名作と言われるだけの作品を作れば良いのです。しかし、それでは今までの本作品に関する商品展開に大きく反するところとなり、製作者側の意図が見えない大きな部分であります。
 つまるところ、製作者は何も考えずに砂上の楼閣を作り上げているだけではないかと言う疑惑を浮かべざるを得ません。

 他にもいくつかの不安要素はあります。
 まず、シナリオライタの変更が挙げられます。前作では、良いも悪いも小説とゲームのシナリオは大倉らいた氏一人で書かれており、その文脈には統一性がありました。ここで、この統一性が崩れてしまう可能性があります。どうも続編では4人で分担してシナリオを担当しているようですが、どうなるかがとても不安です。
 第2にあまりに早い発売日の確約。発売もとのNECインターチャネルと言う会社は、前身のNECアベニューの時代からゲームの発売日破りで有名で、中には発売予定に上がったまま立ち消えになってしまった作品すらあります。この続編が発売日通りに発売されると心から信じている人を私は一人も知りません。これは、ゲームの製作会社としては致命的な信用の欠如ではないでしょうか。
 登場声優の心理的要因もあります。まず、声優の一人が引退してしまったため、登場人物の一人の声が変わります。他のキャラクターについてはそのままなのですが、はっきりいって悪い噂ばかりが聞こえてきます。信憑性が限りなく薄いので、具体的内容はここには書きませんが、話1割にしてもだいぶひどい状況です。本作の声優はとても演技が上手く、このまま業界の波に飲まれて消えてしまわないことを切に願うばかりです。

 内容的な問題はどうでしょうか。
 この続編では、前作のコンセプトの一つであった、遠距離恋愛と言うものを一切排除してしまっています。なんと、12人のヒロインたちは全員東京に引っ越してきているのです。これも驚くべき設定と言えるでしょう。
 切なさの要因が、遠距離恋愛から主人公の死へと移ったわけです。こういった、コンセプトのすり替えは、私はあまり好きではありません。たとえば、この為に「Final Fantasy」シリーズが好きになれなかったりしていますし、「Dragon Quest」も5以降はシステムの違いによりあまり好きになれていません。ただ、これは私個人の問題であり、タイトルに偽りはないのでそれほど大きな問題ではないでしょう。
 後は、ゲームシステムがどうなるかですが、これについての情報はいまだ出まわっていませんね。

 さて、こういった状況からの私の心境は、これでいい作品が作れるものなら作って見てください、といったところです。まだまだ、この設定で名作ができあがってこないとは限りません。私は、真のジャッジはゲームをプレイしてから下そうと早々と決めてしまいました。9割9分方、予想は悪い方向へ裏切られるだろうと私は考えています。だけど、好きな作品の続編が、まだ少しでも名作になる可能性が残されているなら、実物を見てから判断をしても遅くはないと思います。

 ・・・でも・・・たぶん、駄目なんだろうなあ。(笑)

1999.11.11
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