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七角ペンダントに祈りを込めて・・・
Lの季節 〜A Piece of Memories〜
 トンキンハウス(東京書籍メディアファクトリー)

お勧め度 作品 機種
Lの季節 〜A Piece of Memories〜 (PS)
 LSGの中で私が一番の自信を持ってお勧めしたいのがこの作品です。基本的にはノヴェル系のLSGなのですが、随所に他のLSGとの差別化を目指した工夫が施されていて、非常に優れた調和を見せています。シナリオの趣味が合えば間違い無く楽しめる作品だと思います。

 肝心のシナリオですが、一言で言ってしまえば現代風ファンタジーです。この作品にはまず世界が二つ存在します。それぞれ、現実界と幻想界と呼ばれていて、この二つの世界のシナリオが基本的には独自に、時には絡まりながら展開していきます。
 もちろん、それぞれの世界の住人にとっては自分の住む世界こそが現実界なのですが、そのような世界の記述は本文中に無く、それぞれの世界の住人が自分の世界を無意識のうちに唯一と考えていることの証明となっている点、さすがと言うべきでしょう。二つの世界を認識しているキャラクターもあっちの世界、こっちの世界という言いまわしかたしかしません。
 ヒロインはメインヒロインが4人、サブが8人、隠しで2人と全員で14人と、とても大所帯です。そのため、キャラクターによってシナリオの格差があるのは否めません。しかし、これらの設定は世界観や人物設定に忠実に創られており、私が全てのシナリオを見た限りではシナリオ上の矛盾点は皆無でした。これは、当たり前のことかもしれませんが、世界設定レベルから矛盾点の無い作品というのはゲームとしては稀有な存在です。

 そして、そのシナリオを上手に補佐するいろいろなシステムがあります。これら全てのシステムがシナリオを盛り上げ、作品としてのレベルを高いものへと押し上げています。

口出しシステム

 この作品のシナリオの大きな特徴として、基本的に物語が三人称で進んでいくということがあげられます。だいたいのLSGではシナリオは一人称で進んでいくからです。
 しかし、その中にあって、この作品の大きな売りとしているのがこの口出しシステムです。シナリオ進行の途中で、特殊な改行アイコンが出てきたときに主人公の感情に介入できるというものです。
 ぶっちゃけた話、これは主人公の感情に対する選択肢を別のモードに分けたもので、特に口出しシステムとして独立させなくても、口出しが出来るような選択肢を設定させればそれですむ物です。この口出し内容によっては、その後の選択肢が変化することがあるのですが、これはこの手のノヴェル系のゲームでは常識であり、なんら目新しいものではありません。そう、ただ口出しシステムが存在するだけなら、ただ単に選択肢の手法が増えただけで、かえってわずらわしく思う人もいるでしょう。
 しかし、このシステムをよく利用しているもう一つの要素が存在します。

感情値と人物相関関係

 口出しシステムに良く関連付けられているのは主人公の各キャラクターに対する感情値です。口出し画面になると感情値が7角形のグラフとして表示されます。この画面はゲーム進行時のメニューからも表示することが出来るのですが、口出しシステムと連動することによって、主人公の感情を確認することが出来るようになっています。
 また、この口出し画面で、左側にある六角形は登場キャラごとの人物関係相関図です。各キャラクターは当然ですが、それぞれ、親友だったり、姉妹だったりします。また、時には反目しあっている仲のキャラクターもいます。主人公がある人物に対する感情を変化させると、その人物と関係ある人物への感情も変化するのです。
 たとえば、A、Bという二人のキャラクターがいるとします。今、Aに対して肯定的な口出しを行い、Aに対する感情値が上がったとします。この時、BがAを良く思っていれば、主人公のBに対する感情値も上昇します。逆にBがAを悪く思っていれば、Bに対する感情値は減少します。
 ここで面白いのは、感情値の上下に関係するのはBがAに対して抱いている感情に対してだけで、AがBに対して抱いている感情は影響しないと言うことです。一方的に嫌っていたり、慕っていたりする態度について主人公の感情が変化するということを表現しているわけです。
 これらの、感情値を確認できるシステムはプレイヤーがシナリオの展開を操作する際の大きな指標になります。普通はこういった情報はシナリオクリアを簡単にしてしまう為、表面に出されることはほとんどありません。しかし、この作品ではあえてこういった数値を表に出すことで、プレイヤーが狙った展開に進みやすくしています。
 この作品ではバッドエンドも含めて世界観の説明が全シナリオ中のあちらこちらに散らばっています。これらのシステムはこれらを見ることを比較的容易にしています。シナリオを一つ一つクリアするごとに、幾許かの真実が明らかになっていき、徐々に世界観が固定してくる。この世界観の見せ方をよく補佐していると言えるでしょう。

チップヘルプシステム

 システム的な売りの表面が人物相関関係を利用した口出しシステムとするならば、裏の売りはこのチップヘルプシステムだと考えています。
 これは、作品中で一般的にわかりにくい言葉が存在した場合、その言葉の説明を本文とは別に表示する機能です。その言葉が表示されている画面でボタンを押すと、別ウィンドウが表示され、その言葉の説明が表示されます。
 これだけであればほかのゲームにもあるシステムなのですが、この作品の素晴らしいところはこれをシナリオ上の演出として有効活用している点です。シナリオの展開から、もともとこのシナリオ上の演出のためにこのシステムが構築されているような気はするのですが、ゲームを始めた段階でこういった展開は当然予想外なことで、よい意味で裏切られた部分で、なおかつ私がこのゲームのシステム面で一番気に入っている部分でもあります。

興味深いマーケティング

 この作品は、雑誌メディアでの宣伝などは派手なことはしていませんが、そのマーケティングはかなり明確な指標があるように思えます。すなわち、派手なキャラクターで作品を購入させ、渋いシナリオでをプレイヤーを惹きつけるということです。
 派手なキャラクターは言うまでも有りません。幻想界のキャラクター達です。(笑)
 陽気な幽霊、気弱な死神、色黒の雪女、変身する妖精とちょっと聞いただけで興味を引かれるようなキャラクターばかりです。これら他にはいないというのは最初の時点で大きなメリットです。
 しかし、いざ作品に触れ始めると、その奥の深さに驚かされます。特に現実界のシナリオはどこかにいそうなキャラクター達に混って特殊な人物が一人いて、深い物語性を形作っています。そして、現実界の方ではキャラクター描写もサブキャラに至るまで力が入った作りになっており、ふたを開けて見ると現実界のキャラクターの方が幻想界のキャラクターよりも数段人気が出ている結果が出ています。
 実は逆に言うと幻想界の方のシナリオ面がちょっと力尽きている感じはします。メインヒロインの二人のシナリオは力が入っていてよく出来ているのですが、他の4人の内、3人までが似たような展開を進むため、ちょっと個性が出しにくかったのではないかなと思います。
 もちろん、これら幻想界のキャラクターも人気はあります。それだけに、惜しい気はします。しかし、ゲームという作品上まずは買ってもらわないことにはどうしようもないので、製作期間のことを考えればしかたがないのかもしれません。

欠点

 ここまで褒めちぎっていますが、この作品には巨大な欠点があります。
 この作品は現実界と幻想界が複雑に絡まり合い、一度ではとても理解できないような世界設定ができ上がっています。また、ハッピーエンドを迎える為には最低でも2回はクリアしないといけませんし、システム上にシナリオ達成率100%を目指す上での様々な工夫がされています。
 にもかかわらず、このゲームは途中の記録から再開する場合、最後に再開したデータしかシナリオ達成率に反映されないのです。シナリオ達成データが保存データと一体化しているため最終的にシナリオ達成率を上げる為には何度も似たようなシナリオをやりなおす必要があります。最後の方は一つのブロックを埋めるために、最初から全部やり直さないといけないなど、とても非効率です。
 せっかく、立派なブロック図が存在するのですから、任意のブロックからやりなおしする機能がとても欲しかったです。せめてそこまで行かなくても、セーブしたポイントからやりなおしが出きればいくらか楽だったでしょう。
 一応、一度読んだ文章をスキップできる機能は有るのですが、口出しポイントまでかまわずスキップしてしまう為、選択をミスすることもしばしば。このあたり新しいシステムを導入した反面の詰めの甘さが出ていてとても惜しい所です。

 このように、いくつか欠点は有るのですが、演出的なすばらしい演出と、魅力的なキャラクター、シナリオと、すっかり気に入ってしまった私は、発売後一週間で全てのシナリオをクリアしてしまいました。こういった、ノヴェル系の作品としては、システム面、演出面を含めてとても優れた調和を持った作品となっていると思います。学園SFやファンタジーが好きな人は是非この作品に触れてみてください。

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2000.1.28
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