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去年はねぇ

 ばたばたしていたら年が明けてはや一週間たってしまった。

 ふと、去年を振り返る。前半の殺伐かつだらだらした期間と、後半の活発かつ忙殺された期間にきっぱりと別れるだろう。

 前半はひどかった。給料を払わない会社(未だもらっていない)。愚痴りまくる社員。去年の新入社員は全員辞職してしまい、私も覚悟を決めて職場を去った。その後は親にさんざん言われ、自分が活動するための気力を養うのが精一杯だった。

 全ての契機はインターネットを始めたことだ。このおかげで今の会社にもいるようなものだし、何よりも大勢の仲間たちと出会えた。

 「センチメンタルジャーニー」。松本伊予の歌ではない。テレビ東京で深夜に放送していたアニメ番組だ。「センチメンタルグラフティ」という、あまりできのよくないゲームをアニメ化したものだ。ゲームのできは悪くても、キャラクターのできはよく、ストーリーもそこそこのこの作品には少しばかしはまっていた。ほとんどテレビ番組を見なくなっていた私が、当時唯一見ていた番組でもあった。

 その、CMで流れたURLが今は無きPS版ゲームの「センチメンタルジャーニー」の公式ホームページのURLだった。そう、最初はなんとなくひょこひょこ顔を出していただけだったのだ。このゲームには12人のヒロインが存在するのだが、このサイトには12人のヒロインそれぞれにBBSが用意されており、サイトの目玉となっていた。もっとも、私がこのサイトに行き出した時はまだメインのメッセージボードしか存在していなかったが。

 私のこのゲームでのお気に入りのキャラクターは七瀬優。このキャラクターが存在したからこの作品にここまではまったとも言える存在。そして、全ての作品のキャラクターの中で最も強烈な印象を私の脳裏に刻み付けた存在。そんなキャラクター専用のBBSが公式サイトに公開されたのだ。

 最初のうち、時はゆっくりと流れた。他のBBSがキャラクターに対する熱い思いを語る中、優のBBSでは旅を語り、星を語り、歴史を語り、人生を語った。他のBBSが盛り上がり、皆がもっとBBSを盛りたてようとしていた時、優のBBSに参加していたメンバーはそのゆったりとした流れを大切にした。他のBBSでキャラクターを応援するグループができた時、優のBBSではその雰囲気にそのようなグループは合わないと言う意見が多数を占めた。優のBBSのメンバーに対する通称はできたものの、最後まで確固たるグループは存在しなかった。

 七瀬優というキャラクターは自由と個性を尊重し、何かをやろうとしている人を惹きつける。七瀬優というキャラクターの好きなもの、天空の星々、地球の自然、人々が織り成す歴史、騒がしい雑踏の中にいては見つけることの出来ない思いの数々。その思いを共有する人々がここに集まっていた。

 このBBSの特徴はなんといっても話があちこちに飛び回ったことだ。それぞれがそれぞれの個性を尊重した結果だろうか、ひとつのゲーム、それも一人のキャラクターの専門BBSだというのにその空気には全く違和感が無かった。

 このBBSで相談事を持ちかける人も多かった。そういった相談事には必ず多くの返事が返ってきていた。未だ、顔も、声も、どこに住んでいるのかすら知らない者同士が、それぞれの生活についてまでも励ましあっていた。そこは本当に居心地のよい、暖かい空間だったのだ。

 このサイトに顔を出し始めてからしばらくして職が決まる。だからといって変わることも無くBBSには書き込みを続けていた。

 さまざまな書きこみがBBSを賑わす。多くの人の旅行記、いつの間にか始まったリレー小説、はじめましての挨拶に連なる膨大な返事や関係無い話題で盛り上がる人たち。

 時にはネット上のエチケットがわからず間違いをすることもあった。そんな時は誰かが注意し、注意されたほうも何が悪かったのかを理解した。

 そして、8月。夏のコンサート前後に行われたOFF会で優のBBSのメンバーは始めて顔を合わせ、お互い同士の思いの深さを確かめ合った。この時のために随分と遠くから来た人もいた。少々盛り上がりすぎてしまったきらいも無くは無かったが、これによってより一層の団結力を高めたのだった。

 このころから、仕事がとても忙しくなった。土日に出勤するのは当たり前な状況が続く。それでも、月に一度のペースで開かれるOFF会には必ず出席していた。

 夏のOFF会を境にBBSの盛り上がりは限度を超えていく。はじめましての挨拶には必ず20個以上もの返事がつくようになっていた。書きこみの量が他のBBSに比べて一番多くなっていったのもこのころだと思う。多少うちわねたが多くもなっていたが、それでも新しい人は入ってきていた。暖かい雰囲気は未だ失われてはいなかったのだ。

 ただ、最初のころの静かな雰囲気はほぼ失われてしまっていた。そのせいで書きこまなくなってしまった人も何人かはいたようだ。ちょっと残念ではある。

 そんなサイトも10月一杯で幕を閉じた。しかし、この絆は消えることなく、いろいろなBBSやメーリングリストに受け継がれていく。

 12月18日。七瀬優の誕生日。七瀬優の住所である広島にそんな人々が集まった。誕生日を祝い、この出会いに感謝し、遊び、騒ぎ、飲み、食べ、歌った。この日とこの翌日に集まった人は総勢33人。東は北海道、西は九州、私も神奈川からはるばる参加し、とても楽しいときを過ごさせてもらった。

 実はこれほど遠くまで一人で行ったのは始めてのことであった。大学の合宿などに後から参加したりはあったが、せいぜい関東甲信越以内。おかげでかなりハイになっていた。

 そんなこんなで去年は終わった。本当に激動という言葉がぴったりとはまる一年だった。ここで得た仲間たちは非常に大きく私を支えてくれている。

 今年は何を目標にしようとか、そんなことはあまり考えない。ただ、やりたいことは相変わらずたくさんあるので一つ一つつぶしていくだけのことである。もっとも、ひとつ目的を達成すれば他のやりたいことが出てくるだろうから、やりたいことは永久になくならない理屈である。

 ただ、できればあのBBSに書きこんだ人全員が一度に集まるような機会があればよいな・・・などと去年を振り返り、今年を考えて思う。


1999.1.8

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