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旅立ち 編

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第一回
1998/07/14 22:33:16
渚ケイジこと一夢庵

チュウニ(敬称略)「みんないなくなってしまった...僕の周りにはもうセンチファンは...」
"♪わ−たしのこころと−じるまえ−♪.."
 どこからともなくささやくような歌声が聴こえてくる。チュウニはあたりをみまわすと少し離れた瓦礫の上にいつからそこにいたのか鎧姿の青年がたたずんでいた。青年は遠くを見るような目をしてまるで独り言のように語りはじめた
ケイジ;「画集はいいねぇ。お優殿のイラストは自分の心を和ませてくれる。甲斐殿の生み出した文化の極みでござるなぁ」
「君は碇チュウニ君だね」


第二回
1998/07/15 01:38:12
D−boy

チュウニ「ボクの名を?」
ケイジ「知らぬ者は居ないでござるよ」
「どうでもいいけど、なんでそんな言葉づかいなのさ?」
「フッ・・・そんなことを気にしていては天下統一など夢のまた夢でごさるぞ」
「別にいいよ、そんなの」
「ま、そういうなよみさえ」
 なぜか今度はしんのすけ調になるケイジだった。


第三回
1998/07/18 00:20:17
一夢庵

「自分は..貴殿と出会うために生まれてきたのかもしれぬな...」
 ともにセンチファンである二人がうち解けるのにそれほど時間はかからなかった。時を経るに従って自然、二人は親密となり何をするにも一緒であるのが当たり前となっていった..
 夏休みも近いある日の夕暮れ、二人はいつもように一緒に銭湯へ行き、一緒に風呂に入っていた。まだ時間が早いせいか他の客はおらず、二人だけが男湯の空間を占めていた。静寂の中、蛇口からしたたり落ちる水滴が心地よいリズムを刻む。二人の間に言葉はいらなかった。
 ただ二人でいられればよかったのだ。言葉という偽りでこの耽美なる時の流れを壊したくはなかったのだ。
 ふとした拍子にケイジの腕がチュウニの躰に触れた。チュウニが恥ずかしがるように少しケイジから離れるとケイジは静かに語りかけた
「貴殿は..人とつき合うことに慣れていないのだな。人と接するのが怖いのであるか?」
「そ、そんなこと..」
「そうだ! 友情の証しに貴殿に一つ舞を指南致そう。見ていてくれぬか?」
 そう云うが早いかケイジは風呂から飛び出し、前にかがみ込んで舞を始めた。
「ケツだけせーじん! ぶりぶりぶりぶり−..」


第四回 「ユウと呼ばれた少女」
1998/07/19 08:01:49
D−boy

 よく晴れた朝。今日も二人は仲良く登校中であった。
「ねえケイジくん。今日は僕らの学校に転校生が来るらしいよ」
「ほう、それは楽しみでこざるな。美しいおなごであると良いが」
 空を見上げつつ、呑気そのものな返事を返すケイジ。
「そんなマンガみたいにうまいこといくかな」
「ふ・・・ものごとは良い方に考えた方が良いでござるよ」
   そんなケイジに苦笑しつつも、チュウニはそんな彼の素直さをうらやましく思った。
「でもケイジくん、その娘の前でケツダケ星人はなしだよ?」
「なあに、あれは非常時以外やらないでござるよ。ニンニン」
 今度はハットリくんかい、あと非常時ってなんじゃあ、と心の中でつっこみをいれるチュウニであった。

 果たして、ケイジの呑気な予想は当たっていた。
「七瀬ユウです・・・。よろしく」
 その涼やかな瞳をした少女を見たとたん、チュウニの心に「ズキューン!」という銃声が響いた。
 それは、彼がはじめて受ける衝撃だった。
「七瀬君の席は・・・ああ、チュウニくんの横が空いているね」
 年老いた担任の声が、チュウニの耳に遠く響く。その少女が近づいてきた・・・。
「・・・よろしく」
「よ・よ・よろろしし・・・」
「よろしくでござる!」
 そこに突然、ケイジが割り込んだ。
「拙者の名はケイジ。つかぬことをうかがうが、ワカナという娘御をご存知か?」
 その口調は、普段のお気楽極楽なケイジと違って、鬼気迫るものだった。


第五回
1998/07/20 05:23:44
邪道一代男

「フッ……どうしてそんな事聞くの?」
 ケイジの鬼気迫る劇画ン調の顔にも眉一つ動かさず、ユウは答えた。そのケイジを見る穏やかな瞳は、好奇心を湛えている様でもあった。
「ひょっとして、キミの想い人か何か?」
 ケイジの表情は相変わらず劇画ン調である。集中線か何かがあれば、もっと引き立ったであろう。
「知らないでゴザルか?」
「……知らないよ」
「いや、詰まらぬ事をお聞きした。忘れてくだされ」
 そう言い残して、ケイジは席へと戻っていった。


第六回
1998/07/20 13:12:58
MCIsland

 ユウは不思議な娘であった。学校に来ることも少なく、来ても一人で静かに佇んでいることが多かった。そう、何をするわけでもない、ただひたすら静かに佇んでいるのであった。
 チュウニはそんな彼女を見続けていたが、彼に出来ることはケイジの爆走を押さえる程度であった。押さえ切れてはいなかったが。
 そんなある日のこと、二人がふらふらと山の頂上まで来たとき、悲しげに広い東京湾を見下ろす彼女を見つけた。
「こんな処で会うなんて、珍しいね。」
 意外にも話し掛けてきたのはユウの方であった。ピシッ。派手な音を立ててチュウニは石になった。
「これはこれは、ユウ殿にはご機嫌麗しく祝着至極でござる。」
 そんな、物体を傍目に、ケイジは訳の分からない賛辞を贈る。ユウは東京湾に目を戻すことで、一遍の余地も無く流すと、こう切り出した。
「君は・・・アヤサキの一族を知っているのかい?あの、恐ろしい一族を。」


第七回
1998/07/22 15:56:33
やっちまったよ・・・JuJu

「アヤサキ・・・?」
 聞きなれない名前に困惑するチュウニ。
「それは拙者が説明しよう」
 珍しくシリアスな雰囲気を伴ってケイジは話し始めた。
「アヤサキ一族。その莫大な財力をもって世界の政治、経済などに裏から干渉している大富豪の一族でござる。彼らには直属の御庭番衆に常に守られ、絶大な権力を保持しておる。だが、その真の恐ろしさは別の所にあるのでござる」
 まるで劇画のようなケイジに言葉も出ないチュウニ。ユウはただ静かに耳を傾けている。ケイジは続ける。
「それは彼らの特殊能力<A・T(アヤサキ・トランス)フィールド>でござる。不可視の精神領域、絶対の心理力場。そこに踏み入った者を煩悩の海に溺れさせ、行動不能にする恐怖の力・・・」
 あたりを重苦しい沈黙が包む。潮の香りのする風が三人の間を吹きぬける。
(ケイジ君、どうしてそんな事を・・・)
 そう切り出そうとしたチュウニだったが、先に沈黙を破ったのはケイジであった。
「だが・・・だが、ワカナは・・・ワカナだけは違うのでござるーーーっ!!」
「あっ、ケイジ君!」
 チュウニが止めるまもなく、ケイジはじょばじょばーっと涙を撒き散らしながら、だばだばだーーっといずこかへ走り去っていった。
 ユウはあの不思議な、どこか寂しげな瞳で彼らを見つめ、静かに佇んでいた。

 そこは暗い部屋だった。人工の光などないその部屋に二人の男が佇んでいる。顔は見えない。
「始まったな・・・M島」
 一人の男がもう一人に話し掛ける。
「ああ、これがすべての始まりだ、J月」
 落ち着いた、知的な声でM島と呼ばれた男は答える。
「あの少女がそうなのか?」
「そうだ。彼女こそ人類再生の要。<ペルセウス・メテオ>を呼び寄せる事のできる者」
 J月の問いに答えるM島の顔にニヒルな笑みが刻まれる。
 ここはBBS(貧乏がナンボのもんじゃい・ぶちかませモンガーダンス・商店街の通称)本部。息を吹きかけるだけで倒れそうなぼろ小屋の中、二人の男は静かに佇んでいる。すでに電気もガスも止められていた・・・。


第八回「再会」
1998/07/23 00:01:37
渚ケイジこと一夢庵

 悲しみにくれひたすら走るケイジ。気がつくと新横須賀(小田原)の港の倉庫街にたどり着いていた。
「ケイジくーん」
 後から追いかけてきたユウとチュウニが追いついた。
「ケイジ君...さっきワカナっていう人は違うって..云ってたけど...一体どうゆうことなの?」
 チュウニは息を切らしながら問いかけた。その隣でユウは相変わらず涼しげな、そして少し不思議そうな瞳でケイジのことを見つめていた。
 ケイジは呼吸が整ってくるのを待たずに話始めた。
「彼女は...ワカナ殿は...ただ...爺さんのために..」
 その時であった。
「ケイ様!」
 三人とは違う別の声が海の方から聴こえた。

「その声は....ワカメちゃん?」
「ちーがーうぅぅぅ!! わたくしはワカナです!!ワ・カ・ナ!
いい加減わたくしの名前ぐらい覚えてくれませんか?!」
「はっはっは。相変わらずであるなぁ。オカメちゃん。」
 ケイジはマイペースであった。
「はぁ..まったくもう知りません!!」
 自らワカナと名乗ったその娘はぷぃっとそっぽを向いてしまったが、すぐに気を取り直して再び話し始めた。
「まったく..京の都からお隠れあそばしたと思いましたらまさかこのような街に来ているなんて...探すのに苦労致しましたわ。」
 ワカナは少し間をおいて続けた。
「さぁ、スペースがないそうですので早速用件を済ませましょう。ケイ様、そろそろ観念して我々の組織の仲間になってくれませんか?」
 そう云うが早いか弓道着姿のワカナは弓に矢をつがえた。それを見たケイジは驚愕した。
「ま、まさかそれは..古くから綾崎家に伝わる弓と矢では?!」
「そう...この矢で射られて生き残った者がどのようになるか...知らないわけではないでしょう?」

「本気であるか....」
「わたしも..本当は..ケイ様にこんなことはしたくはない...」
 ワカナはうつむき悲しげな声でそう答えた。
 しかし何かを振り払うように首を振り、再びケイジに向き直った。
「しかし! わたしも綾崎の家に連なる者!
 お爺さまの命に逆らうわけにはいきません!
 さぁ、覚悟なさいませ!」
 緊張した空気がケイジとワカナを覆い尽くしていた。


第九回
1998/07/23 02:13:27
MCIsland

「どうだ?J月。ここからならよくみえる。」
「ああ、確かに。良くこんな所を知っているものだ。」
 砂浜で、戯れているようにさえ見れる彼らを、二人は崩れ落ちた西湘バイパスの影で、ぼろを纏いながら凝視していた。
「伊達にこの町で生まれ育ったわけではないさ。新東京はともかく、ここは私の庭だ。」
 何かを思い出すように寂しく笑う。小学生の集団が見たらはやし立てて石でも投げつけられそうな風景だ。
「まて、何か動きがあるぞ。あれは誰だ?」
 見ると、袴姿も凛々しい一人の少女が、見事な弓を片手に波打ち際に立っている。
「ほう、あの弓は櫟の木で出来ている。良い弓だ。」
「何故わかる?」
「勘だ。櫟の弓は50人の殺戮を行うことで、魔弓イチイバルになる。あの弓にはのろわれた匂いがする。」
「まて、M島。様子がおかしい。」
 波打ち際では袴姿の少女が弓をかまえ、その前にやたらと劇画調の顔をした少年が立ちふさがっているところだった。
「大丈夫か、“再生の光”には万が一のことがあってもいけないぞ。<ペルセウス・メテオ>はわずかな動揺が失敗につながる呪文なんだ。」
「おちつけ。どうやら、“再生の光”に用があるわけでもなさそうだ。少し様子を見よう。我々には−黄昏の指輪−があるのだ。これくらいどうにでもなる。むしろ・・・。」
「何だ。M島。」
「むしろ、我々がでしゃばって“再生の光”が動揺する方が恐い。様子を見るんだ。」


第十回「信念と・・・」
1998/07/23 09:38:01
最初は画集の感想だったようなD−boy

「お願いです、ケイジさん。私はあなたを・・・」
 ワカナの瞳には、涙が光っていた。事情の分からないチュウニにも、胸が締めつけられる想いがする。
 だが、ケイジは。
「もののふには、曲げられぬ節というものがあるでござる」
 濁りのない目でワカナを見据えつつケイジは言った。
「そなたに討たれるならば、それも・・・」
「そ、そんな!?」
 物騒なことを言い出すケイジに、思わず叫んでしまうチュウニ。
「・・・フフ・・・」
 その時、ワカナの表情がふいに穏やかになった。
「わかっていたのです。あなたなら、そうおっしゃることは、わかっていた・・・」
 ゆっくりと弓が降ろされ、地面に乾いた音をたてて落ちる。
「そんなあなただから、お慕い申し上げたのです・・・」
 涙に濡れながら、ワカナは弱々しく微笑んだ。その表情を見て、ケイジの顔がさっと青くなる。
「ワ、ワカナ殿、まさかっ!?」
「ああ・・・・・・!」
 ワカナの顔が、ぱっと笑顔で輝く。
「やっと、ちゃんと呼んでくれましたね、私の名前・・・」
 次の瞬間。
 ワカナの胸に、一本の白い矢が突き刺さっていた。
「ワカナ殿おおおおっっっっ!!」
 絶叫し、彼女のもとに駆け寄るケイジ。
「なっ・・・な、なっ・・・!?」
 動転して辺りを見渡すチュウニ。自分達の他に人影はない。では、この矢はどこから?。
「ワカナ殿、目を開けて下され!」
 必死にワカナの体をゆさぶるケイジ。しかし、彼女は答えない。
「でも、へんだよ!?。血が一滴も出ないなんて・・・」
「イチイバルの矢・・・」
 チュウニの疑問に、意外な人物が答えた。それまで沈黙を守っていたユウである。
「その矢は、人を殺しはしない。眠らせるだけさ。・・・ただ、決して覚めない眠りだけど。その矢を抜かない限り・・・ね」
「じゃあ、どうすれば抜けるでござる?」
「それは・・・」
 ユウの表情が曇る。
「その方法は、12人の少女が持つというセンチ・ストーン」
「そして、それによるペルセウス・ストライクだけだ」
 その言葉とともに、二人の男があらわれた。
「M島所長にJ月教授!?」
 ユウが切迫した声を上げた。
 彼女のそんな声を、チュウニはその時はじめて聞いた。

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