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FireEmblemマケドニア興隆記
竜王戦争編
三十七章 不屈の帝国
日が伸び、春の匂いが野山を覆うようになる頃、マケドニアを中心にしたドルーア攻略作戦の準備は大詰めを迎えていた。
マケドニアが準備した兵力は数としては多くない。歩兵や騎兵の陸上戦力は、ムラク将軍配下の三千、マチスが監督するアカネイア駐留中の中から二千、マケドニア本国の防衛部隊からは二千と、わずか七千ほどである。
ドルーアと一大決戦を行おうとすることを考えれば、普通に見れば少なすぎる人数だ。今のマケドニアであれば、少なくともこの五倍以上は楽に動員できるだけの力を持っているはずである。
しかし、竜達を相手取るのであれば通常戦力はほとんど役に立たない。実は、実戦部隊ではないが、この通常兵力とほぼ同数の輜重隊が今回の行軍には同行する。輜重隊も含めて、通常兵力の役割は本隊へのバックアップである。
戦力の中心は、ミシェイルの竜騎士団、パオラの白騎士団、ミネルバの独立親衛部隊。そして、エルレーンの率いる魔道軍と、クラインが率いるマチス直属の軽歩兵隊である。これらの兵力を最大限用意してドルーア軍へ当たることになる。数を減らしてはいたが、魔道士は三百を超える数を集めたし、竜騎士とペガサスナイトは合わせて二千を超える数が集まった。
全体の指揮はエルレーンが行う。マチスも同行するが、専ら幕内で監督役である。
オレルアンの部隊も、アリティアからの派遣軍と合流したアカネイアの部隊も、陸路ではすでにマケドニアへ進発したとの報告がミシェイルの元には届いていた。
「陛下、ただ今戻りました。」
陸上部隊に先駆けて、いち早くマケドニアへ到着したのは、ミネルバの部隊であった。ミネルバは王城に着くと、すぐにミシェイルへ挨拶に伺った。
久しぶりに顔を会わせるミネルバは、以前より一層落ち着いたように見えた。
「オレルアンでは大過なかったか。」
「はい。着任からこの方、わずかばかりの混乱もなく、周辺の治安維持に専念することができました。アリティアからも、繰り返しの謝辞を頂いております。」
言葉を交わす兄妹は、兄は玉座の上から見下ろし、妹は下座で膝を着き見上げている。
「進発は全部隊が揃ってからとなる。パオラなどと話すこともあるであろう。しばし、ゆっくりするがよい。」
「はい。」
公の場であるから、兄妹らしい会話をするわけでもない。それにしても、その場にいた者はこの兄妹に溝があることを感じ取っていた。
ミシェイルとミネルバの確執が、以前は決定的であったことはマケドニアで知らぬ者はいない。ミネルバが一時期出奔していたことで、その噂は巷間にも広く知れ渡っている。
もっとも一般的には、ミネルバがミシェイルと仲違いしたのはミシェイルがマチスに赤騎士の称号を与えたことがきっかけだと考えられている。ミシェイルとミネルバが直接会話したことや、ミネルバのその気質からミシェイルがミネルバを政治の中心から遠ざけようとしていたことまでは、さすがに広まってはいない。
結局、ミネルバが出奔し、マチスの呼び方としては大将軍の方が定着してしまったため、赤騎士という呼称が思い出されることはほぼない。しかし、ミネルバの方の赤い竜騎士という二つ名も印象が薄れ、マケドニアの姫騎士と言う呼称に変わっている。
ミネルバが戻ってきて、ミネルバ独自の部隊が形成されると、姫騎士と言う呼ばれ方は完全に定着した。
この頃になればミシェイルとミネルバの確執も以前ほどには感じ取れなくなっていたが、なんとなく二人は疎遠な状態のままでいる。
ただ、ミネルバの態度について、家臣達は気にしているのだが、ミシェイルは全く気にしていない。ミネルバは自身の職責はしっかりと果たしている。また、ミシェイルはミネルバが以前ほど理不尽な意見を言ってこなくなっていることに気付いている。ミシェイルにとってはそれだけで十分であった。
短い挨拶のみでミネルバを退出させたミシェイルに対して、近侍の家臣達はこれで良いのかと思わずにはいられない。ミシェイルの表情が明るくなっていることに気付いた者はその場にはいなかった。
陸上部隊がマケドニアへ辿り着いたのはミネルバに遅れること二週間ほどのことである。オレルアンから来たムラクの隊、アカネイア各地の部隊から編成されたアカネイアの隊と相次いで到着した。時間に余裕があったため、船はそれほどの数を用意せず、マケドニア南東の港とディールの間を数度往復している。
隊は一時、マケドニア王都の郊外に宿営し、進軍に備えることとなる。王都で準備を続けていたマチスとエルレーンも、この宿営へ合流した。他にも、空の部隊は全軍を動員しており、王城周辺の軍の厩舎は飽和状態となっている。
エルレーンは部隊の集結を確認すると、二日後にドルーアに向けて進軍することを全軍に通知した。
エルレーンは各方面での必要な準備を順次に進めていた。しかし、問題がないわけでもなかった。特に、ひとつの重要な問題について協議するために、エルレーンは自らの陣幕にマチスとクラインを呼び寄せた。
マチスが呼ばれた幕舎に入るなり見ることとなったエルレーンは、いかにも厳しい表情をしている。クラインは先に来ていて、既に席に着いている。
「何か、問題が発生しましたか。」
マチスはエルレーンを見た途端、思わず小さくため息をついてしまった。忙しい時期に無理やり呼ばれた上にこのエルレーンの表情。マチスにもクラインにも、何か良くないことが起きているであろうことは明白であった。
「余りに予想外であるため、お二方にも意見を伺いたく。」
エルレーンが話し始める。
ことは、この作戦が予定されてから繰り返し行われている、ドルーアへの強行偵察についてであった。この偵察は、もちろん行う方はある程度の危険を覚悟して行っている。このため、偵察とは言ってもかなりの戦力を割いている。しかし、未だに偵察における被害はない。それもそのはずである。
「ドルーア軍が存在しない?」
思わずそう反復したクラインに対し、エルレーンが肯く。
ドルーアにも国境から奥にはそれなりに砦などの拠点は存在する。しかし、そのどれもこれもがもぬけの殻だというのだ。
それどころか、全く抵抗がないため、偵察はドルーアの王都にまで到達した。しかし、王都すらもほとんど人気がない。二日ほど前にはとうとう試しに地上へと降りてみたのだが、抵抗は全くなかったと言う。ドルーアの王都は閑散としており、建造物こそそのままだが、昼間の大きな通りでさえほとんど人通りがない。マケドニア軍が来ていると言うのに迎撃する気配すらなかったと言う。
「……なるほど。エルレーンはどのように考えますか?」
エルレーンは首を振る。
「未だに完全な分析ができているとは言い難いのですが……兵を伏しているとすればドルーアは静か過ぎるということです。いくら伏兵があったとしても、人が生活している痕跡すら発見できないのはおかしいかと。」
偵察は空から広範囲に渡って行っている。いくら何でも、大勢の人が潜んでいればその痕跡くらいは見つかるはずである。
「伏兵の件はわかりませんね。確かに、千人単位で白騎士団が偵察している間中、山間に潜んでいることは難しいでしょうが、ドルーアでは竜人が十人も潜んでいれば千人単位の部隊に力量的には匹敵するでしょうから。」
「みんなでどっかに逃げちまったってことは考えられねぇのか?」
話しながら考えをまとめていたマチスを、クラインはばっさりと切り落とした。
「そうであれば楽でいいのですけどね。」
マチスが苦笑して答える。
「しかし、向こうはメディウスが城から動けないのですから、まさかメディウスを残して他が逃げているということはないでしょう。エルレーン、ドルーア軍の姿が見えなくなったのは、ここしばらくのことですよね?」
「……ここ、十日くらいのことです。最初は、潜伏しされているのを偵察部隊が発見できないでいるだけだと考えていたのですが、王都ですら何の反応もないと言うのは異常です。」
エルレーンは、散らばった資料を確かめながらそう言う。マチスがエルレーンから受け取っている資料と同じものであることは間違いない。数日に一度もたらされる偵察による情報は、しばらくは変わりようがないものであった。
マチスの見解は、少数にわかれて各地に潜伏しているというものであった。出発の時期も近く、より一層偵察に力を入れるようにしてきた。しかし、敵の影は全く見つからず、王都に降り立っても反応がないというのはいささか異常に過ぎる。
「私の見解としては、ドルーア軍は早々に籠城を決め込んだのではないかと。これほど敵影が見えないとなれば伏兵については考えにくいですし、クライン殿の言われるようにどこぞに退去したのだと言う事も考えにくい。」
「籠城?」
エルレーンから意外な言葉が聞こえた。マチスはドルーアの王城にも足を踏み入れたことはある。見事な山城で、力だけで攻めようとすればかなりの困難が予想される。施設のほとんどは地下にあり、採光の窓もほとんどないため内部は昼でもかなり暗い。しかし、それゆえに空からの偵察では決してその内情はわからない。
「確かに、あの城であれば普通に考えれば籠城する価値はあるでしょう。しかし、それは人が籠城した場合であって、竜が防衛するようにはできてないはずですが。」
マチスの疑問はそこにあった。その城は確かに見る者を圧倒させるような存在感は持っていたが、内部の通路や部屋は竜が戦えるように作られているとは思えない。普通の軍隊が普通に防衛するにはよく作られている城砦ではあったが、メディウスが拠るとなれば首をかしげることとなる。
「そのことは陛下も指摘していました。あの城はドルーア軍が籠城するようには作られていないと。しかし、そのほとんどが地下にあるという特徴を持っている城です。あの城に籠られてしまえばこちらの竜騎士とペガサスナイトは役に立ちません。」
エルレーンは譲らない。マチスの方でも状況が状況だけにエルレーンの考えを無視できない。ドルーア軍が籠城するのであれば条件は何か。それは、城内で竜の力が発揮できるような城の構造だ。
マチスが考え込み始めたところでクラインが口を開いた。
「……参ったな。ここのところタイミングが悪くてドルーアに潜入させてる連中の報告を受けてなかったんだ。一応、最近の報告でも、ドルーアの城に変化を感じさせるようなのは入ってきてない。ただね。」
「何か気になるところでもありますか?」
「いや、閣下には報告してますけど、ドルーア軍は傭兵部隊の頭……向こうの傭兵はホルスタットってのが頭だったんですけどね、もうやってられないってことで逃げちまったんですよ。隊長含めてほとんどの傭兵が。そんな状況じゃ、人がいないってこともあるんじゃないかと。」
「……気になりますね。私もそれを聞いて竜に有利な中途の山岳地帯などで決戦を挑んでくるものと想定していたのですが。」
ドルーアの傭兵が逃げ出したと言う話は皆、聞いてはいた。だからこそ、ドルーア軍は王都までの中途でなんらかの攻撃を仕掛けてくるだろうと、今日まで警戒していたのだ。
「ともかく、ドルーア軍の動向として考えられることは三つ。伏兵としてどこかに潜んでいる。籠城している。既に逃げ去ったと。最後の一つは考えに入れる必要がないですから、前二つについて対応しなくてはなりません。」
マチスの言葉に二人が肯く。
「まず、伏兵についてですが、ムラク将軍の部隊を先行させて山中に不審な事がないかどうか念入りに調べさせましょう。ペガサスナイトの偵察ほど広範囲にする必要はありませんが、進軍ルートの脅威が十分取り除かれる程度の確認はやってもらいましょう。」
次に、マチスはクラインに向き直った。
「もう一つの方、クラインは情報が入り次第私に教えてほしいのはもちろんですが、エルレーンの方へも直接情報が伝わるようにしてください。」
「あいよ。」
「それと、ドルーアを内偵してもらっている者達には、城の様子について一層詳しく調べるようにお願いして置いて下さい。」
「それも構いませんが、間に合いますかね。」
クラインの部下達は敵地にて諜報活動を行っているためクラインとしてもそれほど多い回数の連絡を取ることはできない。
「間に合わなければ、現地に着いたときに直接確認するしかないですね。」
マチスはこともなげに言う。
「相変わらず難しいことを簡単に言う。例によってどこまでできるかはわからんけど、できるだけはやりますよ。」
「頼みます。」
マチスは頭を下げた。
「クライン殿、白騎士団の伝令部隊にも協力させましょう。今回は各部隊の連携が難しいので、重要そうな情報は伝令部隊を通して各所へ伝えるように手配しています。伝令部隊に情報が伝われば、私のところへも来ます。」
これもエルレーンの工夫であった。今回も、地上の部隊とミシェイルの竜騎士が連携して行動することになっている。しかし、二つの指揮を同一の場所で行うことには無理がある。離れていれば情報の共有は難しい。
これを埋めるために白騎士団の伝令部隊を起用していた。伝令部隊の指揮はカチュアが執っている。
「確かに、ペガサスナイトが一番早いだろうな。問題は、急ごしらえの話がそんなにに上手く行くかってところだが……何せあいつらの内偵は慎重に進めている。伝令部隊の者が直接行っても話が聞き出せるかわからんぞ。俺がそう仕込んでいるからな。」
「そうですか……。」
クラインの返事はあまりよいものではなかった。元々、クラインの部隊はマチスの直属として独自に行動をしている。このため、エルレーンも戦力としては作戦に組み込んではいるが、それ以外のことは考慮外であった。エルレーンとしても納得せざるを得ないところである。
「いや、話は通してみるが、あまり期待はしないでくれ。」
「いえ、それで十分です。伝令部隊にはマチス閣下のところにも一人専属で人員を配置させるように依頼しておきます。そうすれば少なくとも閣下へ入ってくる情報は共有することはできるでしょう。」
エルレーンはクラインの様子が気休め程度な物言いであることを見てとった。マチスへ人員を付けることを妥協点とすると、内偵とのつなぎに伝令部隊を使うことはひとまず考えの外へと追い出した。
「それはこちらとしても助かりますね。私も、偵察の情報などは早めに欲しいですから。」
と、これはマチスも歓迎した。
「では、カチュア殿に伝えてすぐに手配するようお願いしましょう。申し訳ありませんが、ムラク将軍との繋ぎは閣下にお願いできますか。私は、他に輜重部隊の担当者と話し合わなければなりませんので。」
急ぎで決めることが決まったと判断したエルレーンはそうまとめた。
「承りましょう。」
「それじゃ、俺は、何とかドルーアにいる連中と繋ぎを取ってみますかね。」
マチスとクラインがこれに答える。マチスはエルレーンにマケドニアの軍を指揮する将軍としての格のようなものが備わりつつあることを感じていた。
三者三様、当面のなすべきことが決まるとすぐに行動を開始する。事が今日の明日となれば準備は急ぐ必要があった。
出発に備えそれぞれの宿営はあわただしさを増していた。通常兵力は大軍と呼べるほどの兵力は動員されないものの、相手がドルーアとあっては意気込みは高まるばかりである。
特に、ムラクの部隊が先行することが急遽決定すると、さらに動きは激しさを増した。ムラク将軍はマチスから話を聞くと、自部隊の中で偵察用に組んだ隊については翌日を待たずに直ちに出発させた。その動きは他の部隊の者達も何事かと気にすることがあったが、すぐに目の前の忙しさに埋もれていった。
宿営の上空を一頭のペガサスが羽ばたいている。その背中に乗るのは白騎士団の伝令部隊を指揮するカチュアだった。彼女の率いる伝令部隊は今回の出兵に対して、特別に編成した人員で任務に当たっている。
今もまた、司令部からの連絡を目的の部隊へ届けるところであった。もっとも、この場合、連絡する個所がそれほど離れているわけではないのでカチュアがわざわざ飛ぶ理由はない。それでも、カチュアは相手が大事な客人であるからと言う理由で、部下に任せず自分で連絡を行うこととした。
カチュアが目的とする部隊は空から見れば一目瞭然であった。それなりに整然としているマケドニア軍の宿営の中で、一か所だけ明らかに色の異なる場所がある。アカネイアに駐留していた部隊に随伴してきたその一軍は、三十人ほどにも満たない混成部隊であった。
カチュアはそれと確認すると、部隊のすぐ近くへペガサスを降ろした。既に地上でもペガサスが降下してきているのは確認しており数人が迎えに出ていた。
「カチュア!」
喜色を浮かべ、真っ先に駆け寄った者がいた。アリティアから大陸を半周してここまで駆け付けたマルスだった。
「マルス殿下、ご無沙汰しております。」
カチュアはペガサスを降りると、膝をつき礼をした。
「カチュアもこの軍に同行するのかい。」
「はい。ただ、私は伝令の取りまとめですので、実戦への参加はおそらくしないと思われますが。」
マルスはつい軽い調子で話しかけてしまっていた。マルスは周囲の視線を感じごまかすように一度咳き込む。元の隠れ家ではなく、ここにはアカネイアの多くの重要人物もいる。
「カチュア殿が直々に参られるとは、何か重要な変更でもありましたかな。」
やってきたのがカチュアだと言うことに気が付き、同行していたカミユまでが顔を出す。
「はい、多少予定が変わることとなりました。」
カチュアの用件はムラクの部隊が先行することとなったことを伝えるものであった。カミユ達の行動には変更はなく、別段大きな話題ではない。
しかし、一般の兵にはムラクの部隊がなぜ先行するか、その正しいところは伝えられていない。移動に先立ち進路を確保すると言うことしか伝えられていないのだ。
数は少なくとも、カミユやマルスは立場上はマケドニアと対等の立場で援軍に来ている。特にカミユやジョルジュであればこの段階での予定変更に疑問を持つであろう。また、メディウスとの対決となれば、どうしてもマルスがその中心になる。戦いの要となるところに正確な情報が伝わっていなければ不測の際に対応が取れなくなる。
これらのことがあり、エルレーンはカミユ達へはその知りえた情報を逐次伝えるよう伝令部隊へ依頼していた。他に、ユベロが率いる援軍も独自に行動してもらうことになっている。こういった独自に動いてもらう部隊には基本的に全ての情報を伝達するようエルレーンは手筈していた。
逆に、ムラクやオーダインの部隊はエルレーンからの指示のみで動くようになっている。もちろん、二人の将軍の部隊もエルレーンとの連絡が取れなくなるような事態に陥れば独自に行動は取るのだが、基本的にマケドニア軍の地上部隊はエルレーンの管轄である。
「なるほど。状況は了解しました。ジョルジュ殿やアストリア殿達には私から伝えておきましょう。」
カミユは一通りの話を聞き終えると返答を返した。
「ユベロ陛下はこの話はご存知なのですか?」
と、カミユは聞く。ユベロが率いるグルニアからの援軍も既に着陣しており、カミユ達からそう遠くないところで宿営を張っている。グルニアからの部隊は三百人程度とそれなりの人数であり、マケドニア軍中には混ざらずに固まって逗留していた。
「いえ、これから伝えるところです。」
「それでは、陛下にも私の方から連絡を入れておきましょう。我々の行動には大きな影響はないようですし、カチュア殿が直接話を持って行く必要はないでしょう。」
カミユはアカネイアに移った後もユベロのことは陛下と呼ぶ。元々のアカネイアの者からすれば余りいい感じはしないのだが、カミユ自身にそれを直すつもりはない。
「申し訳ありません。よろしければお願いできますか?」
「問題ありません。私の方でやっておきますよ。」
カチュアの用件はそれで全てであった。カミユを含めて話を聞いていたため、マルスはほとんどカチュアと会話することはなかった。
「それでは、私はこれで失礼します。」
カチュアはそう言うと、一度マルスを見て微笑んだ。二人が顔を合わせるのは久しぶりであったのだが、そのまま立ち去るカチュアにマルスは声を掛けることができなかった。
カチュアはためらいを見せずに飛び去って行く。即位こそしてはいないものの、マルスは改めて国王とは難しいものだなと感じていた。
翌日、ムラクが率いる部隊の三千人ほどがあわただしく出発して行った。さらにその翌日、簡単な出陣式を行うと全軍がドルーアへと向かう。
もっとも、まとまって移動するのは地上部隊のみである。竜騎士団と白騎士団は最初は王城に本陣を構えておき、段階的に前線へ移動することとなっている。
地上部隊の総指揮はエルレーンが執っている。ムラク、オーダインと言った古参の将軍を押しのけて指揮を執っているわけだが、一応の将軍たちへの配慮として、エルレーンはマチスの代理で指揮を執っていると言う説明がされている。
当のマチスは今回はエルレーンの監督役のような立場であるが、エルレーンの側にいるわけではない。マチスはアカネイア駐留部隊から参加させた兵士たちの中にいる。
これは、アカネイアからの部隊が各国からの援軍を随伴しているからだ。マケドニア軍から彼らの協力を仰ぐ場合にはマチスから依頼が行くことになっている。
このことに限らず、マチスには全体の状況を見極めて大局的な判断をすることが求められている。確約通り、伝令部隊の者も絶えずマチスの側に常駐し、マチスが常に最新の情報を保持できるようになっている。
地上部隊は偵察を兼ねて先行しているムラクの部隊を先頭に、本体となっているマチスとエルレーンがいるアカネイア駐留軍が次に、本国守備隊から兵を分けた部隊が後方に続く形で進んでいく。オーダインは王都防衛のために王城に残っているため、守備隊からの部隊は別の者が指揮している。
状況は変化しなかった。毎日のムラクからの報告でも、ドルーア軍は影も形も見当たらないと言うことだった。空からの偵察も範囲を広げて行われていたが、ドルーア軍を見つけることは出来なかった。
ドルーアとの国境を越え山道を進む日々となっても、ドルーア軍は見つからい。このころになると、マチスの元にクラインの部下からの情報も入ってくるようになっていた。この段階にきてようやくドルーア軍の意図が見えてきたのである。
「増築ですか?」
その日の野営にて、マチスはエルレーンとクラインからの報告に耳を傾けていた。
「ああ、改めて王城の中をいろいろ調べさせたんだが、ドルーアの王城はどうも相当手が入っているらしい。街中と同じで王城内にもほとんど人気はないらしいんだが……あちこちの構造が今までと違っている。」
マチスとエルレーンは顔を見合わせた。
「そいつが言うには、直接ドルーアの王城に入ってあちこち確認したそうだ。何でも王城の中もほとんど無人になっていて、入口の門衛すらいない。誰が押し入ろうとも捕まるようなことはないだろうって話だ。」
ドルーアの街にドルーア軍がおらず、それどころかほとんど人がいないと言うのはすでに聞いていた話であった。しかし、王城の中まで同じような状態であると言うのは驚きである。
「奥は、広そうなのですか?」
と、マチスが聞く。
「……肝心なのはそこだよな。そいつの話じゃずいぶんときなくさいぜ。どうも、奥の方へ続く入口がいくつかあって、その奥はどうなっているかわからないってことだ。まずは、王城の中がどんなになってるかってのを俺に知らせに来たらしい。」
マチスが軽くため息を吐く。
「わかりました……が、これは……。」
「おそらく、籠城していますね。」
マチスもエルレーンも同じ考えであった。今までドルーア軍が見えないこと。ドルーア軍が何もせずにどこかへ逃げることは考えにくいこと。そして、このもたらされた情報。クラインの情報は確かでないところは多いのだが、状況的にはドルーア軍は籠城しているとしか考えられなかった。
「悪い状況ですね……。これでは竜騎士やペガサスナイトの援護は望めない。」
「ドルーアも無策ではないということでしょう。マケドニア軍が相手である限り、地下へ構造を拡張してそこで迎え撃つ戦術はかなり有効ですからね。」
二人が考え込むのを見て、クラインは動揺した。
「おいおい、どうしたんだ。籠城されたら今の戦力じゃ勝てないってことか?」
重い空気を散らすようにクラインがそう言う。
「そこまでは行かなくとも、どうしても被害は大きくなります。そもそも、一番前で相手をするのはあなた方なのですよ?」
「……そりゃ大変だ。」
クラインは肩をすくめて見せる。言葉の割に大変そうには見えない。
「エルレーン。とにかく、ドルーアの王都までは進軍を。そこで改めて情報を整理して善後策を取りましょう。」
「そうですね。私の方でもいろいろと考えておきます。籠城された時のことも少しは考えてはいますが……これはという有効策はありませんね。」
「それは仕方がありません。クラインの方は……。」
「もっと詳しく調べておけってんだろ?もうとっくに指示は出しているよ。あとは結果待ちだ。」
マチスは頷く。
「それと、陛下へ連絡をするのと合わせてユベロ殿とカミユ殿へも連絡を。他の者にはドルーアの王都に着くまでは伏せておきましょう。」
「そうですね。変に警戒感が無くなっても困りますので。クライン殿、また状況が変わったら連絡をお願いします。」
「わかった。」
マチスとしてもエルレーンとしても、この段階でできることが限られているのはわかっている。鍵になるのは城内の状況である。現地の状況がわからなければ動きようがない。
一軍は以降もドルーアへ進軍を続け、ついに何の抵抗もなくドルーアの王都へ辿り着いていた。
結局、情報らしい情報はドルーアの都へ近づくまでほとんど手に入ることはなかった。クラインの部下からの情報も、連絡に時間が掛るためにそれほど新しくはならない。空からの偵察と、ムラクの部隊が当たっていた山に分け入っての虱つぶしの偵察も、ドルーア軍を捕らえることはできなかった。
従軍している兵士たちは厳重な警戒態勢を維持しながらここまで進軍していたから、肩透かしを食らった形である。エルレーンはマチスとクラインに情報のとりまとめを依頼しつつ、ドルーアの都自体の接収を行った。抵抗は全くなく、作業は完了した。
ドルーアの都自体に既に人がほとんどいなかった。文化が大きく異なるとは言え、一国の都であるから、一時は商人なども頻繁に出入りしていた。しかし、そのような賑やかさは見る影もない。ただ、立ち並ぶ建築物の間を砂ぼこりを含む風が通り抜けている。ガーネフの襲撃の折に破壊された建造物は、そのままとなっている物も多い。それが一層、この街の寂しさを引き立たせていた。
状況を簡単に把握したマケドニア軍は、接収こそしたものの特に戒厳令等は敷かなかった。そもそも監視対象となるべき住民が既にほとんどいなかったのだ。
各部隊が持ち回りで警戒は行われることになったが、マケドニア軍は無傷でここまで進軍してきている。地上軍には余裕があり、ある程度の広さを持つドルーアの王都であったが、全体を十分に把握することは可能だった。ドルーア領自体の占領について、不安なところはほぼなかった。
しかし、城内の内偵の方は順調にはいかなかった。奥を探っていたクラインの部下のうち、帰らずに行方不明となる者が数名いた。おそらくドルーア軍の犠牲になったものと推察された。それでも、現在の城内がどのような構造になっているか、表層に限れば明らかになった。
それを見たマチスは、エルレーンに代表者を集めて軍議を開くよう要請した。ドルーア軍はおそらく城内の奥に潜んでいると考えられたが、その奥から出てくる気配はない。攻勢に出る前に作戦を練る余裕は十分にある。そもそも、城内の構造が、むやみやたらに攻め込めるような構造ではなかった。
エルレーンも同じ考えだった。都を接収した翌日、適当な規模の建物を急ごしらえの本陣とし、そこで軍議を開くこととした。
呼ばれたのはグルニアからユベロ、アカネイアからはカミユがジョルジュを伴って呼ばれた。アリティアからも、マルスが呼ばれた。国としての参加人数は少なかったが、作戦の中心となるからだ。
軍議はエルレーンが取り仕切る。マケドニア側からはマチスに加えてムラクが参加する。マチスとエルレーンで話した結果、竜騎士団が出向く場面ではないという結論になったため、ミシェイルへは報告を送ったに留めた。代わりに白騎士団長のパオラと、独立親衛隊を率いて従軍しているミネルバが参加している。
状況が気になるのか、人の集まりは早かった。思い思いにテーブルの周りに用意された椅子に座る。全員の参集を確認すると、エルレーンが口火を切った。
「皆さん、お忙しい中このように集まっていただきありがとうございます。現在の状況ですが、マチス閣下から把握している全体について説明させていただきます。その上で、今後の方針についても決定したいと思います。……では閣下、よろしくお願いします。」
会議の主役はすぐにマチスに移る。
「まずは皆さん。こちらをご覧いただきたい。」
マチスは、持参した図面をテーブル上へ広げて見せた。
「これは……ドルーアの城内ですか?多少、私の記憶と異なるようですが。」
参加者の中では、マチス以外で唯一ドルーアの城内へ入ったことのあるカミユがそう言った。
「そうです。正確には、私の部下に調べてもらった結果作成されたのがこの図面です。カミユ殿のおっしゃる通り、以前の城内とは構造が異なっています。」
マチスは図面を次々と指差し、説明を加えていく。
「従来の玉座があった場所がここ、諸外国との会議に使われていた広間がこの部屋です。」
そう言いながらマチスが示した箇所は、ずいぶんと浅い階層に見えた。図面ではかなり奥の方まで空間が広がっている。
「そしてここから先が我々が知らない個所です。この先はそれぞれ地下に作られた空間へと続いています。」
図面には色の違う線が一本引かれており、マチスはその線を示した。
「奥へ続く通路が四つありますな。」
いち早く苦言を呈したのはカミユだった。
「……残念ながら、この範囲から先は判明していません。すでに確認をお願いしていた数名は行方不明になっています。そして、帰還した者の報告からこの先に竜が潜んでいることは明らかになっています。」
「つまり、現状でメディウスはこの奥にいる可能性が高いと言うわけです。相手が出てこないのであれば、こちらから攻め込むしかありません。」
エルレーンが説明を補足する。マチスの示した図面。これがマチスが得ることができた情報の全てであった。
「なるほど。これでは確かに我々の出番はなさそうだな。」
ミネルバはミシェイルが参加しないことを不思議に思っていたが、これを聞いて納得した。
「ミネルバ殿下の部隊と白騎士団の方々には引き続き交代で周辺の警戒をお願いしたい。ドルーア軍が城に籠っていることはほぼ間違いありませんが、周囲に部隊が隠れている可能性も無くなったわけではありません。ただ、空の部隊は全てがこの陣へ張り付いている必要はないとは思いますので、そちらで判断していただいて、柔軟な対応をお願いします。」
「心得た。」
「白騎士団も問題ありません。」
ミネルバとパオラが返答を返す。
「それでは、問題はこれをどのように攻めるかですね。四か所同時に攻撃しますか?」
と、これはユベロが発言する。
「まず、問題の第一は、内部の構造が明らかになっていないことです。この四箇所の入口のうち、全てがメディウスに通じているのか、一つのみ正解で残りは囮なのか。やってみなくてはわかりません。どのような攻撃方法を取ろうとも、絶対有効ではありません。」
これに対してマチスが述べたのはあくまで一般論であった。建設的な意見とは言い難いが、会議場の認識を統一しておくためのものであった。
「最重要な事項はマルス殿がメディウスの元まで到達することです。それが叶わなければどうしようもありません。」
マチスはまず、自分が考えているところを聞かせていった。マチスの頭の中にはすでに方針はできてはいたのだが、マケドニアだけで臨む戦いではないため了解を得る必要があった。
考えられる奥の作りは二通りが考えられた。
一つは四つの入口のうち三つまでが行き止まりとなっている場合。この場合、ドルーア側は一つの入口だけを防御すればよいから戦力が集中できる。一方、マケドニア側も行き止まりの通路が判明すれば残りの一か所に戦力を集中することができる。しかし、奥の広さは両軍が十分に展開できるほどの広さはとてもなさそうである。罠の存在なども考えられるが、長期的に有効なものはそれほど考えられない。結果的にこの場合は、戦線が膠着することが考えられる。
一方、奥が繋がっていた場合、ドルーア軍はこちらの出方に対し、能動的に戦力を配置することが可能となる。攻める方は戦力を分散させずに、一点集中して攻撃することができるが、逆に他の点から敵に突出される恐れもあり、結果的に四か所すべての入口を抑えざるを得ない。
一応、他にも二ヵ所が行き止まりとなっている場合なども考えられるが、基本的には状況は変わらない。
「ユベロ殿もおっしゃっていましたが、結局のところ四か所全てに兵力を配置するしかないのです。そうなれば、一か所だけから攻め込み、他は守りに徹すると言うのも難しくなります。」
「相手はドルーア軍です。戦線が一か所でも崩れて竜が出てきてしまえば、こちらの被害も大きくなります。せっかく敵は奥に籠っているのですから、できるだけ封じ込めておきたいのです。」
マチスとエルレーンが交互に説明する。
「状況はわかりました。そこまで状況を分析しているからにはマチス殿は攻撃に対して腹案をお持ちだとお見受けしますが、いかがでしょうか。」
カミユの言葉にマチスが頷く。
「では、私から今回の作戦についての案を出させていただきます。」
マチスの案はこうであった。
まず、四つに分ける突入隊のうち三つまではマケドニア軍が主体で受け持つ。これらは、マチス、エルレーン、クラインがそれぞれ指揮し各入口から突入を図る。
最後の一隊はアカネイア、グルニア、アリティアの軍を混合し、マケドニアからも人数を付けて一隊とする。マルスが存在するこの隊が実質的な本隊となる。実際に、ユベロ、マリク、リンダの魔法、アカネイアの三種の神器の集中など、攻撃力で言えばこの隊が最高になるはずである。
これらの隊はお互いに連携を取りつつ慎重に進む。最終的にはメディウスを討ち取ることが目的だ。
マチスはどちらかと言うと通路は奥で全て繋がっていると考えている。兵力の運用に関して、柔軟性を考えればそちらの方が合理的だからだ。行き止まりに配置された兵は死兵となってしまう。
もっとも、今回のドルーアに関して言えば、あえて逃げ場を断っているようにも見えるから、情報がない段階ではそうとも断言もできない。通常、籠城と言うのは援軍の当てがある場合に使用される戦術だ。それを籠城に適さない戦力である竜が援軍の当てもなく地下に籠っているのだから普通ではない。突入する方にも状況に合わせた柔軟な対応が必要となる。
マチスは、本隊が少しでも楽に奥へ進めるよう、最初にマケドニアの三隊で突入させ、ある程度時間を置いてからマルスの本隊に進んでもらうことを提案した。
行き止まりの通路がある場合は、通路の保守をムラクの部下に任せ突入隊は直ちに他の隊の応援へ回る。他にも、突入した先の構造によっては兵力の配置を随時調整していく。
「突入隊に参加するのは、基本的にクラインに鍛えてもらった剣士達と、魔道士のみです。クライン隊の者を各隊に分散させ、先導するようにします。他の兵力についても適宜分散します。」
マチスから具体的な数字が提示された。その配分もマルスの隊に十分な数が配置されるように計算されている。
「問題……ないでしょう。できる限りの数字ですな。これは。」
カミユは案を吟味しつつ、賛同の意を示す。
「他にやりようもなさそうです。あと、私たちの指揮はカミユ将軍が執って下さい。マルス殿もそれでよろしいですか。」
「それがいいでしょう。カミユ将軍、よろしくお願いします。」
ユベロとマルスもこれに続く。しかし、カミユはユベロが口にした部分に驚いて異を唱えた。
「陛下、待って下さい。陛下を差し置いて私が指揮を執るなど差し出がましいことはできませぬ。ここは、陛下が指揮を執って下さい。」
カミユは相当あわてているように見えた。ユベロからは、カミユは話が進む中でも自分が隊の指揮を執るなど考えていなかった事が容易に見てとれた。ユベロは軽く眉をひそめる。
「カミユ将軍、そなたはアカネイアからの援軍として来ているのだろう。立場としては私と将軍は同じだ。そうであれば、最も経験の豊富なお主が指揮を執るのは当然であろう。そもそも、先代の時も私の父は直接軍の指揮など執ってはいなかった。ここはお主に任せるべきだろう。どうか、素直に引き受けて欲しいものだ。」
「……わかりました。」
ユベロが強い口調で諭すと、さすがにカミユもこれを引き受けた。
カミユにしてみれば、ユベロから命令されたような形になったことで引き受けることにしたのであろう。ユベロは仕方がないと思いつつも、カミユには強引にでも指揮を執ってもらわなくてはならないと考えていた。
これがグルニア軍のみであればユベロが指揮を執っていただろう。しかし、アカネイア軍はユベロのことはほとんど若い王としか考えていないだろう。ユベロが指揮を執った場合、アカネイア軍が不満に思うかもしれないと、ユベロは警戒したのだ。
この点、カミユであればグルニア軍から不満が出るようなことはまずない。カミユの指揮には不安はない。今回、ユベロは魔法での援護に徹するつもりでいる。
それと同時に、カミユにはアカネイアの国王となることが内定しているのだから、その心構えをしっかりしていて欲しいとも思う。アカネイアの王となっても同じようすれいればグルニアとアカネイアの間にいらない摩擦を生じる可能性がある。ユベロとしては無論、そのような状況は避けたい。そう言った点を含めてグルニアからアカネイアへ赴くカミユへ話をしたつもりであったが、カミユにはなかなか難しいことであるようだった。
「他に、異存はありませんか?」
ユベロの思考をよそに会議は進む。マチスがざっと参加者を見渡した。この場に居る者で実際に作戦に参加する者はすでに全員作戦に賛成している。
「では、この方針で攻撃を決行します。攻撃開始は明朝の夜明け前です。まずはマケドニアの三軍が攻撃しますのでころ合いを見てカミユ殿の隊も突入して下さい。タイミングはカミユ殿に一任します。」
「了解した。」
カミユが返答した。さすがにもう迷っているようには見えなかった。
「これから各隊を編成して隊ごとにまとまるようにします。各隊の連携はムラク閣下の偵察隊にお願いします。編成が完了したら明朝まで休憩とします。しっかりと体調を整えて下さい。」
マチスはもう一度全員を見渡すと頭を下げた。
「皆さん、よろしくお願いします。」
それを見て、皆、メディウスとの直接対決がいよいよ始まるのだと、認識を新たにした。それぞれの隊長達の思いは、準備を通じて参加者たちへ伝播した。中には何度となく竜と対峙してきた者もいる。これで終わりにすると、突入隊の士気は高まっていた。